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 平成11(1999)年に設立された大阪市立住まい情報センター。住宅に関する各種情報を一元化した「住情報プラザ」と、 「住まいと暮らし」をテーマにしたミュージアム「大阪くらしの今昔館」を併せ持つ、全国でも珍しいセンターとあって連日多くの市民が訪れています。

 マンションに関する相談も多いということで、世話人会の浅雛克己代表が同センターを訪問し、所長の村上朋子さん、相談担当係長の朝田佐代子さんと懇談しました。


    村上  私も不勉強で、こんな歴史のある組織(関住協)があることを知りませんでした。
代表はこちらには。
    浅雛  しょっちゅう来ています。
    村上  そういえば、機構(集合住宅維持管理機構)とタイアップでよくイベントなどをやっていただいてますね。
    浅雛  その時、司会や講師をやったりしました。僕は中学生まで長柄(大阪市北区)に住んでたんで、昔の市民館(センターの前に建っていた)も知ってます。
    村上  「ここは北市民館のあったところですね」と来館者の方によく言われます。
    浅雛  「くらしの今昔館」にも、よく孫を連れて来てます。
    村上  ありがとうございます。 改めてセンターを説明しますと、平成11年この建物が出来たのと同時に4階の住情報プラザが開館しました。 住まいに関する総合情報発信拠点と位置づけ、大阪市の施設としてスタートしています。 続いて平成13年の4月に住まいのミュージアムとして「大阪くらしの今昔館」(8階)がスタートしました。 この施設の企画はバブル華やかなりし頃から開始されました。その頃は大阪市からの人口の転出が著しかったのです。 地価が高くなり、持ち家を持つなんてとんでもない。賃貸マンションも地価が高いからそれほど供給されない。 そんな中、中間層向けの賃貸住宅を供給するような法律ができ、大阪市で言えば民間の土地所有者の方に建設補助を出して賃貸住宅を建てていただき、 入居された方に家賃補助を出すという民間すまいりんぐという住宅を供給したり新婚家賃補助の制度ができたりした時代でした。
 一方で、公的住宅に入りたいという問い合わせやご相談があったとき、市営だったらどこ、公団だったらどこ、 民間すまいりんぐだったらどこといったように問い合わせ先がばらばらだったのです。それをワンストップ化すればすごく便利ですし、情報が入りやすい。 それが大阪市に住んでいただく魅力の一つとなると考えたのです。
 もう一つは、大阪市は働く場所だけど住むような所ではない、というイメージが全国的にあり、 でも代表のように元から住んでおられる方は大阪市に住んでいる良さをよくご存じだと思うのですが、それが発信できていないと思いますし、 それを分かり易く知ってもらおうと思って、大阪が都市として隆盛していた江戸後期の船場の町家屋を実物大で再現したり、 明治以降の代表的な住宅地を模型で見せたりしているのが「大阪くらしの今昔館」です。
 要は大阪に住みたい、住んでもらいたい、誇りを持ってほしいという思いで、いろんな情報を集めたのがセンターで、 これほどの規模でミュージアムと一体になっているのは全国でも珍しいと思います。

    浅雛  関住協ができたのは30年以上前なんですけど、その頃はバブルでマンションが建ち始めた。 でも、区分所有法はありましたが、どう住まうかということはまったく整理されていなかった。
    村上  そのときは所有できるということでマンションが建ち始めたんですか。
    浅雛  ドアを閉めたら隣近所と付き合わないでいいという風潮が広がっていて、 マンションの建設とか管理とかについてはほとんど経験蓄積がなかったもんで、いろいろトラブルのあった建築会社や管理会社との間で困っていた人たちが集まって交流を始め、 恒常的な組織を作ろうと関住協ができたんです。
 そういうソフトの部分は僕らがやるけど、建物そのものは分からないということで建築士さんにお願いしてハード面から僕らを支援してくれる組織として機構が生まれたんです。
    村上  大阪からスタートしたんですか。
    浅雛  そうです。
    村上  住民から声が上がったっていうのがすごいなって思います。当時だと、住んでいる人は素人、 建設会社はノウハウを持ってますよね。建築業界というのは一番消費者と供給者の情報ギャップが大きい分野じゃないかと思います。 毎日の食べ物だったら、お母さんたちがよく調べて、高い安いは分かるし、新鮮かどうかも分かるんだけど、住宅だけは専門家に言われたら「そうですか」となる。

    浅雛  モデルルームだけあって、外壁はどうなっているとか、さっぱり分からないまま契約する。
    村上  システムキッチンは吟味するけれど、見えない設備など重要な所はお任せするしかない。 今もそうなのかもしれませんが、その当時はもっとギャップもあるし、言葉は悪いですけど言われるがままというのもあったかもしれませんね。

    浅雛  今でもあるんですけど、建築会社の系列の管理会社が最初から決まっている。 そうなると、住人が管理会社にいろいろ言っても正確には伝わらないということがあってトラブルになる。

    村上  関住協さんは1980年代、第1次マンション建設ブームのときから活動されていますが、 大阪市では分譲マンションに住む人も多いので、管理組合を対象に平成12年に大阪市を中心に支援機構を作りました。 中立でニュートラルな情報を発信しておけば、管理会社がこんなことを言っているといっても「あれ、おかしいんじゃないの」と言える。

    浅雛  マンション管理センターはありましたが、マンション適正化法ができて各都道府県にも同じような組織ができたんですよね。

    村上  マンション管理の相談の様子から住んでいる人たちが大規模改修とかに取り組もうというのが昔から比べると増えている感じがします。 大規模改修が2回目とかのサイクルになると、最終的には管理会社に任せるかもしれませんが、一言言っておく、 油断しないようにという意識の管理組合が増えてきているのではないですか。

    浅雛  ただ、住民が高齢化する中で、もう自主管理ができなくなったから管理会社に任そうかというのが増えてきています。 僕とこも自主管理なんですが、建って十数年になって壁が汚れてきたから塗り直さんといかんという話が出た。そのとき僕は理事やったんですが、 理事長は「塗り屋さんに任せたらええやん」という発想だった。 僕は「それでええんか」という思いがあって、あちこち情報を聞いていったら機構にぶつかって、関住協という組織があるということも聞いてた。 住民サイドに立った設計監理、工事監理をやってくれるところが必要だと。少しお金はかかるけど、その方が安心だということで、 だいぶ時間がかかりましたけど理事会でも総会でも承認された。

    村上  住民サイドに立った専門家を引き込むというのは大切です。 大阪市もマンション管理のアドバイザーとして第三者的な建築士を管理組合に派遣する制度を持っているのですが、 アドバイザーの先生は「最終的に管理組合さんから『私ら誰に頼んだらいいのか』と言われるが、そう言われても僕ら営業するわけにもいかんし(笑い)」と。 確かに、いい建築士さんを頼むと、その部分でお金はかかるけどメリットはありますよね。管理会社の言い値で通らないよってことにもなると思います。

    朝田  相談でも大規模改修が件数的に一番多いです。その次が総会関係、さらに管理会社関係、これがトップ3になってきます。

    村上  センターの相談は昨年度全体で約6700件で、マンション管理に分類されるものは633件、 1割ほどです。この中で組織運営とか建物の修繕とかいうのは180件です。

    浅雛  僕とこも相談をやってますが、管理会社とのトラブルとかが多いです。建物の修繕とかになったら、すぐに機構に頼む。

    朝田  技術的、法的、資金的に解決することがあるかもしれないですけど、それで解決しないもやもやというのがあって、 専門家と相談するだけじゃなく、同じように苦労している管理組合さん同士交流することで、解消までにはいってないですけど糸口とかヒントを得られる。 支援機構で年2回ほどそんな交流会をやってましたが、苦労話をこぼすところも必要とされているみたいです。 それを関住協さんはすでにやられてたってすごくいいことだなって思いました。

    浅雛  毎年、機構と一緒になって「マンション管理実践講座」で滞納問題と駐車場問題やってるんだけど、 最初一応のアドバイスはしますが、後はどんどん意見が出てくる。

    朝田  そうそう。うちでも「1回休憩とりましょ」と言っても、休憩とらずに熱心に話しておられる。
    浅雛  今年度は「役員のなり手不足を解消する」というのもやります。
    村上  また難しい話ですね。みんな迷い込んでしまうところですよね。
    浅雛  僕はわりと楽観視してるんですよ。もしほんまに困れば役員のなり手は出てくると。
    朝田  みなさん、総会でもしっかり考えておられる。発言しちゃうとまずいと思ってても、 いざとなったら「やってやろう」と思ってはる。

    浅雛  なり手不足では働き方の問題もある。区分所有者自身が長時間労働で早く家へ帰れない。 規約を見直して役員になれる範囲を広げるとかの工夫が要る。例えば賃貸の人も役員になれるようにしているところもあります。
    村上  資産運用以外、日々のことであれば賃貸の人もできることはありますよね。
    浅雛  最近の住み方としては資産というよりも終の棲家として考えている人が増えているので、 賃貸の人の方が外に住んでいる区分所有者よりもマンションのことがよく分かっているわけですから。

    朝田  役員というのは区分所有者としての義務なんですね。 ただ役員は限られた数だから全員がそのときに当たるわけじゃないんだけど、本当は一人ひとりがオーナーなんです。 マンション買うか賃貸に入るか、持ち家対借家というのが永遠のテーマなんですけど、分譲マンションを選ぶということは賃貸料を払うぐらいでローンが払えるからです。 でも、「賃貸に入る意識で入ったらあかんよ、お金は一緒かもしれないけれどオーナーとしての責任があるんですよ」とセミナーで言ってるんです。
 ドア一つ閉めたら周りと遮断されるというメンタリティーでマンションに入るって、ある意味では正しいかもしれないけど、 そうじゃないところが知らされないまま分譲マンションを選択されたら、その人にとっても「あれ、話が違うやんか」って。そんなことデベロッパーは絶対に言わない(笑い)。
    浅雛  だから、僕は中古を薦めます。管理組合がどうなっているか分かるから。
    朝田  新築はある意味ギャンブルです。トラブルなく過ごせるのがラッキーって感じ。
    村上  みなさん新築が好きですし、自分の空間としては新築はすごくいいんですが、 これからコミュニティを構築していかなあかんというのもあって、うまくいかないときの危機管理が必要なんですね。

    浅雛  管理がうまくいくためにはコミュニティが非常に大事やと思うんです。 国交省も標準管理規約の改正でコミュニティーのためにお金を使ってもよろしい、というのを入れましたよね。 ただ、最小限のコミュニティって理事会が開けるか、その場所があるかどうかやと思うんです。 ところが大阪市内は特に集会室がないマンションが多いんです。 集会室(所)を作りなさいという規定がないんで、15分も20分もかかる公共施設を借りないと総会も開けない。

    村上  公共施設を借りるという面倒くささと言う「そんな小さなこと」から崩れていったりしますもんね。
    朝田  駐車場の義務があるんであれば集会室も義務化しないとあかんかもしれませんね。
    浅雛  それから、市内だったらデベロッパーの要求で敷地いっぱいに作るから空間空地がない。 だから集まれない。僕んところはかろうじて餅つき大会がやれるぐらいのスペースがあるから毎年やってますが、そういうスペースもない。

    朝田  トラブルがあっての相談ですけど、たまにはコミュニティが大事だからと定期的にお茶を飲んだり、 健康づくりことをしたりとか、写真を見せながら話してくださると嬉しいですね。

    浅雛  集会室があると、そういうふれあい喫茶みたいなことがやれるんですが、ないから仕方なく空き室を管理組合が買って、 そこを集会室に改装するというところもあります。 僕のところも建築会社がつぶれて管理人室を売りに出した。売られたら困るので裁判をやって、結局和解で安く管理組合が買い取ったんですけどね。

    朝田  繁華街の中にあるマンションで、ビジネスがされようとしていて、 それを防止するためにセンターや弁護士に相談されるなど管理組合の取り組みで住居専用を守ることが出来たマンションがありました。 うちのセミナーでも成功例として発表していただいたんですが、そのトラブルを解決した後、いろいろとコミュニティの活性化につながっていったみたいです。

    村上  小さいマンションなら小さいなりに悩みはあるので、 マンションの規模別でグループを作り意見交換するというのは一番共感しやすいかもしれませんね。重なるところもあるんですけど、 「その悩み、うちにはないわ」ということにもなりますから。
    朝田  最近はタワーマンションも増えてるから、そのカテゴリーもできるかもしれません。
    浅雛  タワーマンションのほうが閉鎖的なんじゃないですか。
    村上  そういうイメージはありますね。なにしろロックの仕組みがどんどん高度化していて、以前、担当者が、 あるマンションを訪問したらロックが何重にもあって入るのに難しかった(笑い)。

    朝田  タワーマンションの中で売れ残ってしまって、先に入居したときより値下げしていて、 住民間で意識が違う。そういう話も聞きました。

    村上  投資型のマンションで分譲貸しだと顔も見ない賃貸人が増えるとか、 数年間で居住者が変わるとかいうのも増えてきているように思います。

    朝田  母親のネグレクトで子どもが亡くなった西区のマンションは投資型の分譲マンションで住んでいるのは賃貸人ばかり、 しかも若い人が多かったので全然交流もなかったそうです。事件の後「なんで自分たちが救えなかったんや」とマンション内でコミュニティを作られたと聞きました。 西区はそういうマンションが多いですね。関住協さんもずっと相談を受けられてて、意識とかレベルとか変わったとお感じですか。

    浅雛  そうですね、最初の頃は総会の開き方が分からないというのがありました。 そこで模擬総会というのをやったこともあります。途中で「議長は誰がなるべきか」というクイズを出す。 議長は理事長がやると書いてある規約が多いんですが、「それは本当に民主的な運営でしょうか」という問いかけをして、 「理事長がやると理事会よりの運営に見られることもあるんで、できるだけ第三者の参加者から選んだほうがいいですよ」って。
 うちの会員で役員引き継ぎ書を作っているところもあります。何を引き継がんとあかんのか分からんで困りはったんです。
    村上  後の人は助かりますよね。
    浅雛  特に輪番制でやるところは絶対必要ですよね。 輪番制でなくても、長期政権みたいなところやったら、それがころっと変わったら何をしたらええんやろとなって(笑い)。

    朝田  長期でやっててベテランに任せているとすごく楽なんですけど、ほかの方のレベルが全然上がらない。 「はがゆくても輪番制にして、ちょっとずつ底上げしていかないといけないでしょ」ってアドバイスすることもあります。
    浅雛  蓄積と経験を広げるというのをどうミックスしていくかですね。
    村上  それと改善ですね。


懇談して改めて感じたのは、マンション住まいはいろいろ問題もあるがそれだけに楽しいということです。 大規模改修もそうだし、コミュニティづくりもそう。苦労する分だけマンションがいとおしくなります。まだまだ模索が続きます。 みなさんと一緒に解決していけたらと思っています。(浅雛記)